2008.12.21.
 
 
(昨日の続きです。)
 
 
ジェンナーさんの種痘(牛痘)、推進派と反対派の
議論はすれ違いのまま決着を見ず、各々、
独自の大系として,
今日なお、ヨーロッパに根付いています。
 
ヨーロッパでは、互いに矛盾をはらんだ二つの西洋医学が
共に浸透していくのですが、日本や米国、他の世界に広められたのは、
推進派の人たちの「考え方」です。
 
 
もっとも、ジェンナーさんの種痘そのものは、歴史に名を刻んだ後、
医療の現場からは、消え去ることになります。
 
牛痘に感染した乳牛。
その乳牛から乳搾りの少女が、牛痘ウィルスを染され、牛痘を発症。 
つまり、人間の
子供の体内で増殖した牛痘ウィルスを
その子供の膿という状態で、他の子供の腕に塗りたくって、メスで切り刻む。

このやり方自体は乱暴に過ぎます。 種痘賛成推進派も、種痘を受けた
子供の死亡率が高くなってしまうことは認め、それは、やり方が乱暴だからだと
反論します。 

膿はないだろう、いくらなんでも、と。  

で、膿ではなく、感染した子供の
リンパ液を取って、他の子供の腕に刻む
方法に変更したところ、確かに死亡率は
下がりました。 
ほらやっぱり、と、推進派は、ほくそ笑みます。

反対派は、それは短期的な現象であって、その子供の生涯を見れば、
やっぱり種痘を受けると死亡率は上がる、と引き下がりませんが、
目の前で子供が死ぬかもしれない、目の前、目先の危機を回避できるなら、
生涯のリスクという、先にならないと分からない話はどうでもいい、
と考える人も
多かったのでしょう。
 
もっとも、牛痘に感染した人間の子供を「使う」というのは、どこまでいっても
無理があります。 以前にも書きましたが、日本にも牛痘に感染した子供が、
「輸出」され、種痘を実施する「ウィルス供給ソース」として使われました。
今から考えると、ギョッとする話ですが、200年前なら、奴隷貿易が公然と
行われていたのです。 ほんの100年前とか、もっと最近でも、
なくなった訳ではありません。
 
結局、ジェンナー方式は廃れます。 
代わりに、ワクチニアウィルスを、毛を剃った牛の体側に
植え付け、
ウィルスを増殖させた後、皮を剥ぎ取る、
残酷といえば残酷な方法で、ワクチンが
つくられるようになります。 
概ね、150年ほど前のことです。 
このワクチンは、強力であり、
今日のニワトリの受精卵、培養細胞などを
使って作成される生ワクチンよりも
効果の高いものでした。
もちろん、ウィルスの感染力を叩いてから注射する不活化ワクチンよりも、
遥かに強力ということになります。  
ちなみに、ペプチドワクチンは、もっと更に効果が落ちるものです。 
こうして、ワクチニアウィルスを用いるワクチンが、天然痘撲滅運動に使われ、
今日でも、世界中の研究室で、ウィルス株が保存されています。

また、隠れたベストセラー「ノイロトロピン」という医薬品製造にも使われています。

このウィルス、自然界には存在せず、天然痘を発症する痘瘡ウィルスとも、
牛痘ウィルスとも別物で、サイズが超巨大(20万塩基対)、
人間の免疫系制御遺伝子を多数もつ、という「超」謎のウィルスであることは
前にも書かせていただきました。
 
後にも、先にも、ワクチンの強力な疾病予防効果が確認され、実際に、人類が
撲滅に成功した感染症は、天然痘、ただ一つです。 (天然痘を発症する
痘瘡ウィルスは人間を宿主とする珍しい病原性ウィルスである、
他の動物の体内では安定的に存続できないので、
人間の感染源を封じ込めれば隠れるところがなくなる。
感染者の隔離に成功したからこそ撲滅できたんだ、
ワクチンが決定打だったのではない、
という反論についても、
以前、ご紹介させていただきました)
 
ちょっと、前の話の繰り返しになってしまいましたが、
反対派の考え方、日本には普及しなかった、もう一つの
西洋医学的な考え方をもう一度、見てみましょう。

人間には、(自然)免疫が備わっており、免疫が強い人は、
全く初めて遭遇する感染体であっても、感染もしないし、死亡に
いたることはない。 ところが、免疫が弱い人は、感染を許し、死亡に
いたることもある。 免疫が弱い人に、ワクチンを投与すると、
効果がないばかりか、ワクチンの毒も重なり、死亡率が上がる。



これ、がんと自然免疫の話に置き換えれば、少なくとも前半は、
そのまま通用しますね。

人間には自然免疫があり、免疫の強い人は、がんの増殖を
許さない。 免疫が弱い人は、がんの増殖を許し、死に至る
こともある。


最後のところはどうでしょう。

免疫が弱い人に、がんワクチンを投与すると、
効果がないばかりか、ワクチンの毒も重なり、死亡率が上がる。

これは、ちょっと違うかな、と思われるでしょうか。


実は、今年、2008年、大きな事件が発生しました。
武田薬品が日米で臨床試験を進めていたがんワクチンが、
試験中止となりました。 がんワクチンを投与された
グループのがん患者の方が、投与されていないグループの
がん患者より、お亡くなりになるペースが顕著に早いことが
明らかになったのです。 これは駄目だ、ということで、
試験終了を待たず、投与取りやめとなりました。

このケース、がんワクチンといっても、免疫を非特異的に
刺激するタイプのものであって、限界が露呈されたんだ、
やはりがんワクチンはがん特異性抗原を用いなければ
いけない、と、論点がずれた論評を載せていた有名な
バイオ誌もありました。 効果があるかないかの議論ではなく、
がんワクチンの投与によって、死亡率が上がる、という、
想定外だったはずの現象については、何の説明にも
なっていません。

二百年も前に、ジェンナーさんの種痘に反対した人々の
主張と、妙に符号する今年おこった、がんワクチン臨床中の
事故。 この事故は、二百年前から、預言されていたのでしょうか、、、


さて、この問題についての突っ込みは、またの機会として、
明日は、病気とは何か、根源的な問いに、少し迫ってみようと
考えています。 気が変わるかもしれませんが、ブログなんで。