2008.12.7.


レビオさんと、具体的に何をどうした、という事実を書くことは
できませんが、基本的に、CA19-9は糖鎖を認識すること、
そこで、糖鎖について、共同であることをやろうではないか、
という話をさせていただいたのです。 

さて、DNAとか、RNAは、鎖状にくっついて繋がるのですが、
各分子とも、言ってみれば、右手と左手、二本しか手がなく、
必ず右手は他の分子の左手とつなぎます。 
AGCT、4種類のDNA分子があれば、
二つのDNA分子がつながった場合の組み合わせは
16種類しかありません。 

アミノ酸は、手が3本あるやつ、ちょっと変わった手を持つ奴、
いくつかバリエーションがありますが、やはり、基本的に、右手と
左手をもち、右手は必ず左手とつなごうとします。
標準的に使われるアミノ酸20種類を、二つ結合させたペプチドは、
400種類存在します。

糖は、千手観音です。元々、糖は種類が多く、手の数が多く、右手
同士でつながることもあり、枝分かれも頻繁です。 
生化学の試験で、「二糖」、つまり糖の分子が二つくっついた物質の
種類はいくつあるか答えよ、という問題がありました。
どこまでレアな糖を含めるかで、全然、数字が変わるのですが、
何百というレベルに留まるものではあり得ません。 
生体内にそんなのあるのかしら、というものまで含めてしまうと、
「万余」、ではすみません。
これが、三糖とか、四糖とかになると、、、、回答は一言、
 
「森羅万象」
 
となります。

ちなみに、免疫学の授業でも、抗原の種類はいくつあるか、という
問いに対し、やはり、「森羅万象」ある、ということになっておりました。

要するに、糖は分析するのが大変、合成するのも大変、扱うのが
面倒なのです。 遺伝子工学やった方が、絶対、論文を書くのは楽です。
 
ちなみに、NK細胞より、T細胞の方が圧倒的に論文が多く、
研究者の絶対数も絶対的に多い理由は非常に簡単、
「扱い易く、論文ネタが多い」んです。

糖鎖(糖が、いくつかつながったもの)の構造を決定する情報は、
そのまんまの形では、遺伝子の上に載っていません。 
蛋白質であれば、アミノ酸をどう並べればいいのか、
遺伝子に情報があるのです。 
そして生合成された蛋白質、そのまま糖鎖がつかないものもありますが、
多くは、糖蛋白として、後から糖鎖がくっつきます。
くっつき方の大体の法則は分かっており、どこでくっつくか、
どういう酵素が働くかも分かってはいるのですが、ほんとのところ、どうやって、
正確な制御をやっているのか、よく分からないのです。 

糖脂質というのもあります。
CAシリーズの一連の腫瘍マーカーは、糖脂質の中の糖鎖の一部を
認識するものです。 これらは、細胞表面に、糖鎖の森の如く、
ビシッと生えています。
イメージとしては、ジャイアントケルプ(昆布の一種)の海、
というところでしょうか。

糖鎖は、細胞や蛋白質の表面を覆っており、細胞同士、細胞と物質、
細胞とウィルスやバクテリア等が、互いを認識したり、くっついたり、
反発したりするのに重要な役割を担っております。 
DNAよりも、遥かに構造のバリエーションが多い、つまり、情報の量が
多い上に、表面に出ている、というところがミソで、細胞や分子の名札
という性格をも持っています。

インフルエンザの薬として話題になるタミフルなんかも、糖鎖と深い
関係があります。 糖鎖の先頭によく結合しているシアール酸
(これも糖の一種で、電気を帯び、電気の力で粘膜のような
性質を醸します)、このシアール酸がウィルスを電気的に
ひっかけて、動けなくしてしまう為、インフルエンザウィルスは
シアール酸を切り離す酵素をもっています。
タミフルはこの酵素を阻害するものです。
これ、相当、昔から知られていた物質ですが、
なにやら、今頃、製品として有名になってきました。

就職してまもなく、糖鎖の制御が重要になる、
と考え、糖鎖研究をサポートする
ネットワーク作りを始めました。

まず、物がないと研究もできません。
そこで手始めに、スウェーデンのマルモという港町へ飛び、
そこに本社のある、糖鎖コレクション世界一と
考えられたバイオカーブ社を訪問、総代理店権を
取得しました。

スウェーデンのウプサラ大学とか、カロリンスカ大学は
糖鎖の研究で有名でしたが、その中でも、スヴェンソン教授は
よく名が知られていました。 バイオカーブ社のボードは、
スヴェンソン教授と仲間のグループを中心メンバーとして構成されました。
資本は、自動車のボルボ、戦闘機のサーブ、通信機器の
エリクソンなど、スウェーデンを代表する企業の、そのまた
大株主であった機関投資家が提供していました。

スウェーデンは、人体を原材料とする製品を売る、ということに、
特になんの抵抗も感じないようです。 こんなものを売っているのか、、、
と、ギョッとしたこともありましたが、Any problem ?  何か問題でも?
と平然としております。 確かに必要なもの、という事は分るのですが、
日本では、有りえない、、、、
バイオカーブ社の場合、ギョッとする物ではないのですが、ビックリする
物ではありました。 ヒトミルク由来の糖鎖。  

人間のミルク、母乳です。

創業に当り、10万人の妊婦さんを集め、ミルクを搾り、
巨大なタンク満タンにヒト・ミルクを大量に集め、
そこから、糖鎖を精製し、数百品目の糖鎖の在庫をそろえてから、
「ご商売」を始められました。 

これは、なかなか真似のできない芸当です。
で、あのう、、 どうやって、搾ったんですか?
という野暮な質問は控えましたが、
どうやったんでしょうねえ??

ここの糖鎖コレクションを売りながら、
糖鎖を買っていく研究者に、ところで先生、
糖鎖を買って、何をしてるんですか?
と聞いて廻るのです。

また、分析も大変なので、西海岸にあった
グライコメッドというベンチャー企業の総代理店権も
取得しました。 マススペクトラムという非常に値段の高い
装置がごろごろ転がっている超リッチなベンチャー企業です。
糖の分析には欠かせない装置ですが、何せ高い。
糖の研究が進まない大きなネックの一つです。
その点、DNAなんて、台所に毛が生えた設備で分析できるので、
よく、キッチンテクノロジーと言われていました。
 
米国では、ベンチャー企業が一回のファイナンスで、数十億とか、
100億円規模を集めるのは珍しくありませんでした。
私が直接、関わった人工血液のベンチャーの場合、
一度の増資で300億円を集めてしまいました。
日本のマザーズのような新興市場に比べると、米国の新興市場は
動いている資金が二桁、つまり数百倍、大きいのです。 
上場後に株を売る市場が大きいということは、未上場の企業への
投資資金もまた、大きくできるということです。 
日本のベンチャーキャピタルは逆立ちしても、規模で
米国に適わないのは当然です。 上場後、会社丸ごと売っても、
100億いけば大きい方なのですから、上場前に、会社のごく一部の
株を得るために投資できるのは、せいぜい、一社に、
数億円が上限で、普通は、数千万円位しか投資できないのです。
グライコメッドは、米国の投資環境の恩恵を受け、
ごってり資金を集めて高額な分析装置を揃え、世界中から
研究者を招いて、その成果の先取りを狙ったのでした。
 
国内のグループ企業の中から、糖の技術に長けているところが、
糖鎖を化学合成する専門部署を立ち上げました。
国内で有名な研究者というと、理化学研の小川教授とか、
名古屋市立大学の手島教授でしたが、国内の権威の先生方との
パイプは、グループ企業の仕事です。
人体から取った糖鎖、化学合成した糖鎖、更に、酵素で一部の
糖をつけたり取ったりする技術、糖関連酵素といえば、林原グループが
有名でしたが、こういうことなら、この企業、というメンバーを束ねて、
国際的なシンジゲーションを築いていきました。
 
このネットワークに集まる人や情報から、がん治療の途を探ったのですが。
なかなか、本題に入れないですね、ま、ブログですから、徒然なるは、ご勘弁を。
 
続きは明日以降で。