2008.11.18. 昨日、特異性と非特異性について少しだけ書かせていただきましたが、この言葉は、一般の方にはなかなか理解しにくい、といいいますが、すんなり飲み込めない言葉のようです。よく質問をいただくのですが、質問される方もピンポイントな質問ができないようです。 
 
簡単に言ってしまうと、 あまり気にしなくてもいい、ということなので、あ、そう、と納得された方は、無理に読まれなくてもいいと思います。 なにせ、しち面倒臭い話ですから。 ただ患者様からのご質問が多いので、頑張って、少しでも分かりやすいように工夫して書いてみますので、ご関心ある方は最後までお付合いください。
 
最近、特にそうなんですが、メディアは盛んに、「特異的にがん細胞を攻撃する」、「がん特異抗原を用いて、、、」という表現を使い、しかも特異的な反応が善であり、非特異的なものは強くない、とか良くないもの、というニュアンスを醸しだしています。 つい先日も、某有名バイオ関連情報誌が、武田薬品さんが開発していた「がんワクチン」が開発中止になった事件を取り上げていました(がんワクチンを打った患者さんのグループの方が、打たなかった患者さんのグループより、早く、亡くなっていかれるので、試験を中止したのです)。記事の中では、このがんワクチンは、非特異的反応だから、効かなかったのだろう、まだまだ開発中のがんワクチンは特異的だから期待できる、とまで書いていました。何を根拠に?と言いたくなりますが、無茶苦茶、単純に特異的なものはいい、という論調が益々、強くなってきているのです。 ところが実は。  特異的か非特異的かは、視点、「何を基準に見るか」、によって、全く同じ反応が特異的となったり、非特異的となったりするのです。  また、ほんとうは、非特異的という言い方は、単独で使ってはいけないのです。 相対的な表現、ということなのですが、こういう言い方では、かえって分からないでしょうから、例をあげて説明しましょう。  
 
がん細胞表面にある抗原、仮にAとしましょう。このAという物質に特異的に反応する抗体があったとします。 これは、その抗体Xが、その特定の抗原物質Aに結合する、という意味です。他の抗原ではなく、あくまでもその抗原物質Aの特有の性質に反応し、結合する、ということです。 そして、AであってもBであっても、Cであっても、A以外、様々な抗原物質に結合する抗体Yがあったとすると、抗体YはAに非特異的に結合する、という言い方になります。 Aにも結合はするのだけども、別にAでなくても、他の抗原にも結合するので、一応、Aを認識はしているけど、Aだけを特定して認識しているのではないということです。 ところが、です。 もし、抗体Yが、がん細胞のもつ抗原なら何であっても結合し、がん細胞以外、正常細胞のもつ抗原には結合しないとしたら、この抗体Yは、「がん細胞表面抗原A」に注目して見ると、非特異的にAに結合する、ということになりますが、「がん細胞表面抗原全般」に注目して見てみると、特異的にがん細胞表面抗原に結合する、ということになります。 あれ、同じ抗体が、同じ抗原にくっついてるのですよ。  でも、細胞レベルで、がん細胞か、正常細胞か、という視点で眺めた場合と、細胞表面抗原物質レベルで、抗原Aだけを認識するの、他の抗原もごっちゃに認識してしまうの? という視点で眺めた場合とで、同じ物をみているのに片や、特異的、片や非特異的、となってしまうのです。  抗原Aに対してどうか、では、がん細胞というもっと大きな括りで、対象の範囲を広げてみればどうか、そうすると、抗体YはAに対して非特異的、がん細胞に対しては特異的に結合する、ということになります。 
 
残念ながら、このような、がん細胞に特異的に結合する抗体はみつかっていませんが、NK細胞は正に、がん細胞を特異的に攻撃するものなのです。 
あれ??? 混乱しましたか?  
 
特定の性質をもつがん細胞Zを標的に訓練したキラーT細胞、つまりCTLと化したキラーT細胞は、覚えたがん細胞Zを特異的に攻撃します。 ところが、Z以外の覚えてないがん細胞は攻撃できません。 NK細胞は、CTLの訓練に使ったのと同じがん細胞Zを攻撃しますが、Z以外の他のがん細胞も攻撃するので、Zという特定のがん細胞を基準に物を見ると、NK細胞は、Zを非特異的に攻撃する、ということになります。 他のがん細胞も攻撃するので、Z特有の何かを認識しているのではないのです。 そうではなく、がん細胞特有の何かを認識するので、NK細胞は、がん細胞全部を対象として物を見ると、NK細胞はがん細胞を特異的に攻撃する、ということになります。 ううん、どうでもいいや、と思われた方、正解です。 学問的には、特異的かどうか、というのは重要なのですが、あくまで、何を中心、基準に物を見るかによって、同じ反応が特異的に見えたり、非特異的に見えたりするのです。 NK細胞の攻撃力は、非特異的なものである、と言ってる人がいれば、何を対象に、特異性を定義しているのですか? と、聞いてみればいいのです。 え? という顔をしたら、その人は、科学の基本を知らないのです。   
 
最後にだめ押し。CTLは、標的がん細胞Zを特異的に攻撃する、つまり、この患者さんがもっている、Zとは性質が異なる他のがん細胞は攻撃しない、ということです。 一方、NK細胞は、がん細胞Zを非特異的に攻撃し、そして、全てのがん細胞を特異的に攻撃します。