2017.6.20.



米国国立衛生研究所NIHが
数十リットルもの血液から集めた
NK細胞を、活性化して、患者体内に
戻し、数百人のがん患者全員に
何らかの効果がみられたものの、
非現実的なコストがかかり
実用性は見送られました。

その後、NK細胞療法については
どのような模索が行われたのでしょうか。


大規模臨床試験の際には、
培養期間は3日以内とされました。
短期間しか培養しない理由は
NK細胞が増殖を始めると
活性の高いものほど自爆しやすい
そこで、増殖が始まる前に体内に戻す
というものでした。

また、これ以上、培養をひっぱると
猛烈なスピードでT細胞が増殖します。


がん患者さんの血液20mlを採血したと
します。


その中に存在するNK細胞は、数十万個ほど。

T細胞は、1000万個とか、
それ以上いることもあります。

実際の比率に合わせて
仮に、NK細胞1個 と T細胞 20個が
一緒にいるとします。

一般的な免疫刺激をかけながら
培養を開始するとどうなるか。

NK細胞は、1週間たっても、1個のままです。
3日くらいで増殖が始まるのは健常者のNK細胞の話。
がん患者さんのNK細胞は、なかなか増殖を始めません。
T細胞は、いきなり増殖をはじめます。
初日や二日目の挙動は、まちまちですが
3日後に、100個くらいになったとすると
そこから先は、倍々ゲームで増え
1週間たつと、数字の細部に
意味はありませんが、機械的に
計算すると1600個になります。
NK細胞は、1個のままです。

10日たつと、NK細胞は、やっと2個
T細胞は、12800個。

2週間たつと、NK細胞は、4個
T細胞は、200,000個に増えています。

実際には、2週間もたつころには、T細胞は
死ぬものも増えてきますので、この通りには
増えません。


NK細胞が、なかなか発見されなかった理由の一つも
ここにあります。

NK細胞は、T細胞と一緒にいる。
一緒にいるT細胞は爆発的なスピードで増えるが
NK細胞の増殖ははるかに遅い

そのため、あっという間にT細胞だらけになり
NK細胞は埋もれてしまいます。


ANK療法以外の国内のほとんどすべての
リンパ球系(NK細胞/T細胞系)の
免疫細胞療法では、概ね、このような
NK/T細胞の増殖が起こっています。



米国NIHでは、その後、T細胞を除去する手法で
NK細胞療法を実現できないのか模索を続けました。

以前に、ご紹介した、マイクロビーズに抗CD3抗体をつけ
T細胞が、これに結合すると、磁石でマイクロビーズを
ひきつけ、T細胞を取り除くというものも、代表的なものの
一つです。 活性の高い、細胞接着間物質を大量に分泌する
NK細胞も、一緒にくっついて除去されるため、
あまり役に立たないNK細胞しか残らないのですが。

実験レベルでは、EBウイルスを感染させたB細胞などを
大量に加えます。 B細胞は、通常は培養できませんが
EBウイルス感染により、異常化させ、大量増殖させておいて
NK細胞を数で圧倒する比率で混ぜ、一緒に培養します。
こうすると、まともなNK細胞は戦い疲れ、細胞分裂の
残り回数は元々、数回ほどなので、それほど増えません。

一方、異常細胞を攻撃しないミュータントなNK細胞の一部は
際限なく増殖を繰り返し、この異常化したNK細胞が
増えてきます。 この手のNK細胞は、MHCクラスIを
発現するがん細胞を傷害しない、など、何らかの機能障害を
もつ異常細胞です。

研究用なら、EBウイルスを使っても問題ありませんが
治療用となると、ウイルスを使うのは問題があるため
大量に採取された末梢血由来の単球に放射線をあてて
NK細胞を圧倒する数を加え、一緒に培養します。
こうして、さきほどと同様に異常化したNK細胞が
増えてきますが、やはり、がん細胞を傷害する能力が
落ちています。

NIHでは、実際に、こうしたネガティブなセレクションを
かけたNK細胞を、がん治療として用いる臨床試験を
実施しましたが、当然、効果がでるわけもありません。
やはり、人体から採りだしたばかりの野生型のNK細胞を
活性化し、そのまま体内に戻す、1984年方式が
理に適っており、それ以降の「改良」されたはずの
方法は、例外なく、傷害能力の低いNK細胞を選択して
しまう手法であり、未だに、80年台の技術を
超えるものが登場しません。


最先端の研究とか、古い技術とか、いう言い方をするとき
最新の技術ほどいいものという錯覚があるようですが、
原理原則というのは変わりませんし、
NK細胞は、大昔からNK細胞であり
原理に忠実な手法を最初に開発し、以後、原理から逸脱した
最先端の技術が試されては、効果を発揮することなく
研究目的以外では用いられなくなっていきました。



(続く)