2017.9.10.



武田薬品さんが、CAR-T療法の
技術を有するベンチャー企業さんとの
提携を発表されています。

次世代CAR-T療法と銘打ち、
固形がんに対して有効なものと
発表されています。


では、臨床上の実用レベルの固形がんに
有効なCAR-T療法開発について
目途が立ったのでしょうか。


結論から申し上げますと
いくつもあるハードルの一つを
これで超えられるかもしれない
という要素技術を開発した、
ということです。

CAR-T療法というのは、
キラーT細胞に遺伝子改変を行い
特定の標的物質を発現する標的細胞を
攻撃するよう「改造」した
免疫細胞療法の一種です。

ノバルティスさんの、CAR−T019が
FDAの承認を取得し、治療費5千万円以上
ということも話題になっていますが
実際には、附帯費用がもっと発生します。

CAR-T療法というのは、固形がんに対しては
実験レベルでも、威力を示すことが難しく
これまで、がん細胞を傷害することに
成功してきたのは、特定のリンパ球を標的と
するものに限られていました。
承認取得にいたったものは、
B細胞に特有のCD19を標的とする
CAR-T療法であり、B細胞型の悪性リンパ腫の
一部を対象としますが、正常なB細胞も
攻撃します。そのため、血液中の抗体が
激減し、野菜を食べても感染症、という
レベルに至ることもあるため、
免疫グロブリン製剤を大量投与するなど
補助療法が必要になります。


要するに、がん細胞特有の「単一物質」としての
標的物質は存在しないため、B細胞に広く分布する
物質を標的とし、がん細胞も正常細胞も
軒並み攻撃する、というやり方しかできないわけです。

がん細胞そのものを認識し、
正常細胞は傷害しないNK細胞ではなく、
単純な標的物質に反応するT細胞を用いる限り
敵と味方を区別できないという
この限界を突破することはできません。


では、固形がんを標的とする場合、
固形がんにも、正常な組織を構成する正常細胞にも
共通の標的物質を対象にCAR-Tをつくればいいのか
というと、それ以前の問題で、ひっかかってきたのです。

シンプルに申し上げると、攻撃力不足により
マウスに移植したヒトがん細胞が形成した腫瘍で
あっても、CAR-Tでは、満足な傷害作用が
観られなかったのです。


今回、武田薬品さんが、提携を発表された
ベンチャー企業さんの要素技術というのは、
CAR−Tの遺伝子改変の際に、他のリンパ球を
呼び寄せる物質や、免疫刺激物質などの産生遺伝子も
一緒に組み込む、というものです。

結果として、腫瘍の消失が見られる、ということなのですが
あくまで、マウスに移植されたヒトの膵癌細胞などに
リンパ球などによく発現しているマーカー物質を
遺伝子改変によって導入してあります。

現実のがん患者さんの体内に存在する本物のがん細胞が
つくる腫瘍組織とは、かなり異なるものです。


よく言われる、「ネズミのがんを治す話」の領域を
出ていないものですが、ともかくも、固形がんには
手も足もでなかったCAR-Tの増強策の一つとして
武器が増えた、ということにはなります。


では、これで直ちに実用化へ走れるのか、というと
まだまだハードルだらけです。


標的物質をどうするのか。

今回のように日ごろから、T細胞が馴染んでいる
リンパ球系のマーカーに比べると、固形がんに
多く発現する物質、つまり正常な上皮組織にも
発現している物質は、そもそも、CAR-Tからは
見えにくい、という問題もあります。


固形がんをCAR-Tで狙う際の標的物質については
別途、このブログで紹介していく予定です。


今回は、CAR-Tを奏効させるための必須要件を
整理しておきます。


標的物質の選定という最重要要件については
このブログのこれまでの記事や、今後、新たに
書くものをご参照ください。

それ以外に、活性を維持ないし高める遺伝子改変が
必須です。 
というのは、キラーT細胞は、どちらかといえば
免疫抑制系の細胞です。
がん患者さん体内の強い免疫抑制下に
キラーT細胞を投与しても、
直ちに活性が低下し、機能しなくなります。
これは、米国NIHが実施した大規模臨床試験でも
確認されており、
また、私どもが、CTL療法(キラーT療法)を
提供する際には、
ANK療法によって、強い免疫刺激を加えながら
同時に実施することを条件としています。
CAR-T細胞を、がん患者体内に投与すると
いきなりダウンしますので、
強い免疫刺激シグナルが発生する、
もしくは、抑制シグナルをブロックするなど
結果的に、高活性を維持できる様な遺伝子改変を
行わなければ、何の役にもたたなくなります。

そして、今回の提携対象となった技術が示すように
特に固形がんを対象とする場合、
免疫細胞が集積するような
サイトカインあるいは、ケモカイン等と呼ばれる
免疫刺激物質や、仲間の免疫細胞を「呼び寄せる因子」を
大量放出する遺伝子改変も重要、ということです。


他にも、CAR-T療法は、体内で、いつまでも、
「暴走」を続ける傾向もあるため、その対策を
講じる必要があります。
つまり、遺伝子改変により
活性化のスイッチが入りっぱなしになるため、
戦闘終結の段階になってもなお、
攻撃行動を続ける、
そして、がん細胞が減ってきても
攻撃を継続すると、正常細胞ばかりがダメージを
受けるようになります。
揚句に、他の免疫細胞を呼び続け、活性化信号を
送り続けると、正常組織に対する自己免疫的な
攻撃が継続することになり、深刻な副作用を
招く危険があります。
そのため、アポトーシス誘導など、CAR-Tが
消滅するための遺伝子改変による安全装置も
考案されています。